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 エッセイ


シネマエッセイ    鷹取洋二

第4回は「最上教報」(最上教報社刊)の令和3年7月号掲載分です。

本棚の中にある映画

 趣味は?と問われれば、一に映画鑑賞、二に読書です、と答えてきました。この二番目の趣味のおかげで、我が家には本と本棚がどんどん増えていきました。大好きな映画に関する本と大学時代に学んだ歴史本、井上靖、司馬遼太郎、五木寛之、藤沢周平などの小説、国内&海外のミステリー、ノンフィクションにエッセイ、コミックに写真集など欲しいと思った本は迷わず購入してきたのです。その中には、いわゆる積(つ)ん読(どく)だけの本もたくさんあります。例えば、藤沢周平の本。単行本と文庫本で、ほぼ全作品揃っているにもかかわらず、箱入り上製本の『藤沢周平全集』(文藝春秋版)全二十三巻を購入し、本棚に並べてその背表紙を見て楽しんでいるのです。

 そんな私も終活を考える年齢になりました。整理し処分するものは山ほどありますが、一番身近なところにあるのが蔵書です。幸いなことに私の郷里である岡山県勝田郡勝田町(現在美作市)の図書館が、今までに約1000冊、贈呈本として引き取ってくれました。このあとも出来ることなら美作市にお願いし、同数程度の本を受けていただければと思っています。

 ただ、蔵書の中で残しておきたい本もあります。一番目の趣味とリンクする映画本です。そんな映画本の中で圧倒的に多いのが、書斎(というほどの部屋ではありませんが)の本棚を占拠している映画雑誌『キネマ旬報』(キネマ旬報社刊。以下キネ旬と記す)です。大学入学の翌年の昭和四十年から令和三年の現在まで、月二回発行のこの本を全て購入してきました。それだけではありません。学生時代は、岡山市内の古書店巡りをし、昭和四十年以前のキネ旬、特に前年の映画界総決算号となる二月上旬or下旬号を収集したのです。今、改めて書斎の本棚の最上段に手を伸ばし、右端にあるキネ旬を引き出すと、それは昭和二十六年一月下旬號でした。ちなみに総決算号の最古本は、前年のベストテン映画が発表されている昭和二十八年二月上旬号で、日本映画の第一位は『生きる』(監督/黒沢明、主演/志村喬)、外国映画第一位は『チャップリンの殺人狂時代』(監督・主演/チャールズ・チャップリン)となっています。色あせて背表紙が剥がれたキネ旬を見ていると、あの頃の古書店巡りがカットバックのように蘇ってきます。

 キネ旬には、懐かしい思い出もあります。昭和五十一年三月下旬号の随想欄に私の投稿が掲載されたのです。それは、その年の一月三十一日に大阪のサンケイホールで開催された『宮本武蔵』五部作(監督/内田吐夢、主演/中村錦之助、昭和三十六年〜四十年)の一挙上映を、岡山からわざわざ観に行った時の模様を記したもので、タイトルは「あんたもすきねえ」。深夜に帰宅した当時三十一歳の私に放たれた妻の一言です。

 実は、私は中村錦之助の大ファンで、『宮本武蔵』もリアルタイムで観ていましたが、五部作一挙上映に魅かれて岡山から大阪まで足を運んだのです。彼には、『宮本武蔵』のほかに『反逆児』(監督/伊藤大輔、昭和三十六年)、『冷飯とおさんとちゃん』(監督/田坂具隆、昭和四十年)、『柳生一族の陰謀』(監督/深作欣二、昭和五十三年)など数多くの力作がありますが、硬軟使い分けた彼の演技力と白い槿(むくげ)の花が印象的な『関の彌太ッぺ』(監督/山下耕作、昭和三十八年)が私のベスト作品です。

 そんなこともあり、居間の本棚にある映画本コーナーで目立つのは時代劇がテーマの本です。『時代劇映画の詩と真実』(伊藤大輔編、キネマ旬報社)、『完本 チャンバラ時代劇講座』(橋本治著、徳間書店)、『君は時代劇映画を見たか』(佐藤忠男著、じゃこめてい出版)、『時代劇ここにあり』(川本三郎著、平凡社)、『時代劇は死なず!』(春日太一著、集英社)などですが、平成九年、六十四歳で亡くなった錦之助を偲んで出版された『芸道六十年回顧写真集 萬屋錦之介』(東京新聞出版局)もあります(注:昭和四十七年、中村錦之助は萬屋錦之介に改名)。久しぶりに写真集を開いてみました。表紙と扉の間に彼の急死を伝える平成九年三月十一日付の新聞四紙が挟まれていました。「無念!!復帰果たせず」、「闘病15年 ついに刀折れ・・・」などの見出しが踊る各紙を読み直していると、錦ちゃんという愛称で呼ばれた人気スターの座に安住せず、新しい役柄を求めてチャレンジし続けた彼の姿が改めて思い出されます。

 映画本コーナーにはこの他にも映画史、映画評論、映画作家論、シナリオ集、映画の原作本などが並んでいますが、私のイチ押しは『関根忠郎の映画惹句(じゃっく)術』(関根忠郎著、徳間書店)です。ちなみに惹句とは、「人の注意や興味をひきつけるための文句」(大辞林)、つまり宣伝コピーです。著者の関根忠郎は、東映の宣伝部に長年勤務し、フリーになって以降も数多くの日本映画の惹句を担当した人です。この本には、彼が捻(ひね)り出したおびただしい数の惹句が収められていますが、それだけではなく映画製作の裏側やスターの素顔などにも触れています。ページをめくり、声を出しながら惹句をなぞっていくと、映画館に足を運んでこれから始まる映画に胸を躍らせていた昭和の記憶がよみがえってきます。

 新型コロナウイルス禍でステイホーム時代の今、本棚にある本を通して映画の魅力を再確認するのもまた楽しからずや、です。

 最後は、関根忠郎作、『関の彌太ッぺ』の名惹句で締めましょう。
    十年昔はなかった傷だ。
    顔も変わった、心も荒れた。
    男彌太ッぺ、泣かぬ顔して人を斬る!  






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